【乗り越えた先に】「トラウマを成長の糧にする」という生き方
過去の、大きな「精神的ショック」や「辛い経験」が原因で起きる心の傷。
「トラウマ(心的外傷)」である。
そして、トラウマ体験が原因で、
不安や緊張が続いたり眠れなくなったりする、
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」の存在は、広く知られている。
しかし、その一方で、
「PTG(心的外傷後成長)」について知っている人は少ない。
「PTG」とは、トラウマを体験した後、
つまり「心に傷を負った人」が、その経験を乗り越えて「人間的な成長」を遂げることである。
近年の研究では、ストレスやトラウマの経験には、プラスの側面も存在すると考えられている。
世の中を見渡して見ると、多くの人が「トラウマ」「PTSD」に苦しんでいる。
実際に「PTSD」を抱えて苦しんでいる人は、
「PTSD」という言葉・概念しか知らないから、
「打つ手がない」という発想に陥りがちだと感じている。
あらゆる事象は「言葉という概念」によって定義されるのだから、
「それ」についての言葉を知らなければ、
人は「それ」を知覚・定義することができない。
「PTSD」に苦しみ、八方塞がりな気分に陥っている人は、
一方で「PTG」という「逆境を乗り越えた後に大きく成長するケース」を知ることで、
暗闇の中に光明が差すような「救い」を感じられるのではないだろうか?
「PTG(心的外傷後成長)」とは、
1996年にアメリカの臨床心理学者、
リチャード・テデスキとローレンス・カルフーンによって発表された概念である。
「PTG」の定義とは、
「トラウマや辛い経験、困難を乗り越えたことで生まれる、ポジティブな心理的成長」を指す。
これまでの研究で「心に大きな傷を負いながら、そこと向き合って乗り越えた人」の70%が、
何らかの「ポジティブな心理的成長」を遂げているとわかっている。
例えば、
- 「何気ない日常」に感謝できるようになった
- 自分が人生で「本当にやりたいこと」をやれるようになった
- 以前よりも「善い人間」になることができた
- 良い人間関係を持てるようになった
- 「人生観」「生きること」に対する意識が高まった
- 精神的に強くなることができた
- 他人に感謝し、利他的な行動を取れるようになった
- 自然体に生き、色んなことを許せるようになった
これ以外にも、心理的成長には様々な変化が含まれる。
「PTG(心的外傷後成長)」のプロセス
人間は、自分が作った「価値観」「信念」といった「思い込み」に沿って生きている。
しかし「心が折れるような衝撃的な出来事」を経験すると、
それまで持っていた、その「価値観」「信念」が破壊される。
その人が今まで歩んできた、人生の基盤となる「生き方」「アイデンティティ」といったものが、
根底から覆され、粉々に砕け散る。
まさに「心が折れる」経験であり、精神的な「どん底」に叩き落される。
そこから立ち上がるには、ゼロからスタートするしかない。
それまで持っていた「価値観」「信念」は、もう通用しない。
もう一度最初から、自分の「在り方」を再構築しなければならない。
それは「精神的な苦痛」を伴う、辛い作業である。
例えば、
- 事故や災害に巻き込まれた時
- 強烈な挫折を体験した時
- 深刻な病気を経験した時
- 家族との死別
- 愛する人との別れ
- 仲間からの裏切り
- 過酷なハラスメントを受けた時
そういった状況から立ち直ろうとする時、
まずは直面している「目の前の現実」と向き合い、
自分の中で猛烈に処理し、折り合いを付ける必要がある。
それは、悲しみや嘆き、怒り、絶望といった「ネガティブな感情」が伴うプロセスである。
そして、こういった「ネガティブな感情」と共に「自己成長」が始まる。
自分の置かれた「逆境」に適応し、
「心の傷」と「ネガティブな感情」と向き合うことで成長するのだ。
この「自分を再構築する作業」は、長く難しい旅路となる。
自分が今まで大切にしてきた、
重要だと思っていた「価値観」「信念」を手放し、刷新する必要がある。
そうする一方で、トラウマを経験した事で気付いた「新しい価値観」「信念」を築き上げる。
とても苦しい作業だが、そこを乗り越えると、やがて自分が「強い人間」であると感じるようになる。
今までの自分にはなかった「強さ」と「生きる知恵」を持っていることに気付く。
自分自身に、より正直になり、本当に求めていた「生き方」が見えてくるかもしれない。
それまでの「人生の優先事項」は変わり、当たり前に思っていたことに対して「疑問」が浮かび、
「新しい生き方」を模索するようになる。
長い人生、逆境は付きものであり、避けて通ることはできない。
「PTG」は楽な体験ではない。辛く、痛みを伴うものだ。
しかし、その痛みを経て「新しい自分」「新しい人生」へと繋がる可能性がある。
ただ、過酷な体験をした人が全員「PTG」の道を歩み始める訳ではない。
もがき苦しみながら、一進一退し、揺れ動きながら、
「PTSD」と「PTG」が併存するような形で進んでいくことも多い。
道半ばで、潰れてしまう人もいるだろう。
しかし、
「たとえ堪え難い経験に直面しても、人は乗り越え、成長することが出来る」
という「視点」を持つことが出来れば、どんなに悲惨な状況に遭遇しても、
希望を失わずに生きることは可能なのだ。
人生の困難に打ち克ち、自分の意志で乗り越えた時、
あなたは、あなたの「人生の英雄」になれる。
「愛と意志」を持って、生きる事が出来る。
あなたが、そう望めば、道は拓かれる。
明日は明日の風が吹く。