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子育てとソクラテス

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子育てとソクラテス
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職場性ストレス/組織マネジメントの専門家 元国営企業に17年間在籍。 派閥や忖度が渦巻く組織で、管理職として300名以上をマネジメント。 重大アクシデント、人間関係の悪化、チーム崩壊といった修羅場を何度も乗り越え、「成果に繋がる行動設計」「人間関係の立て直し」「チームの活性化」など、現場で数多くの問題解決と組織改善に取り組んだ経験を持つ。 これまで会社員・管理職・起業家・経営者など、1500名以上を支援。職場のストレスや人間関係の問題、成果が出せないスランプに悩む方へ、心理技術と現場知見を統合した「実践的かつ本質的な解決策」を提供。 売上アップ・転職・独立・人間関係の改善など、「理想の働き方」を実現するサポートをしています。まずは、公式LINEまたは体験セッションでご相談ください。
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3歳の娘の第一人称が
「ボク」になって、はや半年が過ぎた。
いわゆる、「僕っ娘」というやつである。

 

「ボクねえ、これ食べる!」
「ボクのおもちゃ!」と、
毎日元気に宣言している。

 

その響きは無邪気で可愛らしい。

 

しかし親としては
「このままでいいのだろうか」と、
ふと不安になる瞬間がある。

 

この正体不明のモヤモヤを解決するため、
私は脳内会議室に
一人の賢者を召喚することにした。

 

古代ギリシャの哲学者、ソクラテスである。

 

暇だったわけではない。
いや、少し暇だったのかもしれない。

 

「おお、空よ。君はまた、
ひどく些細なことで
眉間にシワを寄せているな」

 

脳内のソクラテスは、
白い布を巻きつけたような姿で、
やれやれといった顔をして座っていた。

 

「些細なことじゃないですよ、
ソクラテスさん。
娘が『ボク』って言い続けて半年ですよ。

このまま小学生になって
中学生になっても
『ボク』だったらどうしようかと」

 

「ほう。では問おう。なぜ女の子が
『ボク』と言ってはいけないのだ?」

 

「それは……世間一般的に、女の子は
『わたし』と言うものだからです。

変に目立って、からかわれたりしたら
可哀想じゃないですか」

 

ソクラテスは顎ひげを撫でながら、
ニヤリと笑った。

 

「なるほど。君は『世間』という
実体のない幽霊を恐れているのだな。

では、その『世間』とやらが、
娘さんの人生の責任を
とってくれるのかね?」

 

「……とりませんね」

 

「無知の知、という
言葉を知っているだろう。

君は『女の子はこうあるべきだ』という
常識を知っているつもりになっている。

しかし本当は
『なぜそうあるべきか』を
全くわかっていないのではないか?」

 

痛いところを突かれた。
確かに、論理的な理由は見当たらない。

ソクラテスはさらに問いを重ねる。

 

「娘さんは『ボク』と言っているとき、
悲しそうにしているか?」

 

「いいえ。めちゃくちゃ楽しそうに、
お尻を振りながら
アンパンマンの歌を歌っています」

 

「ならば、それで十分ではないか。

幼児にとって、言葉は
世界に触れるための
魔法の杖のようなものだ。

彼女は今、
『ボク』という音の響きや、
それが持つちょっと強そうな雰囲気を
楽しんでいるに過ぎない。

君は、
魔法使いごっこをしている
子供に『君は魔法使いではない』と
マジレスするような
野暮な大人になりたいのか?」

 

「魔法使いごっこ……」

 

「そうだ。彼女は今、
『ボク』という無敵のマントを羽織って、
この広くて新しい世界を
大冒険している最中なのだ。

いずれ、そのマントが
必要なくなる日は自然と来る。

それまでは、
その小さな冒険者を
温かく見守ってやるのが、
親の役目ではないのかね?」

 

私はハッとした。

 

そうだ。娘は別に、
世間に反逆しようとしているわけではない。

ただ
「今の自分に一番しっくりくる言葉」として、
たまたま「ボク」を選んだだけなのだ。

 

私はいつの間にか、勝手な常識の枠に
我が子を押し込めようとしていた。

 

「ソクラテスさん……
あなた、ただの理屈っぽい
オッサンかと思っていました。
わりと良いこと言いますね」

 

「失礼なやつだな、君は。
まあよい、その無敵のマントを
まとった小さな勇者を、
大いに愛してやるのだな」

 

ソクラテスは満足げにうなずき、
スッと脳内の霧の中へ消えていった。

 

私は、
憑き物が落ちたような晴れやかな気分だった。

そうだ、ボクだっていいじゃないか。
彼女が彼女らしく、
堂々と生きていけるなら。

 

私は溢れんばかりの父性愛を胸に、
リビングで遊んでいる
3歳の小さな勇者に歩み寄った。

 

「パパー」

勇者が私を見上げて、ニコッと笑った。
なんて可愛いのだろう。

 

私は悟りを開いた賢者のような、
穏やかな笑みを浮かべて声をかけた。

 

「どうしたの?」

 

すると、小さな勇者は、
満面の笑みでこう言い放った。

 

「パパ、ボク、アイスクリーム食べる!」

「いや、今日3個目じゃん」

 

私の口から、さっきまでの
哲学的な余韻を完全にぶち壊す、
極めて現実的なツッコミが飛び出した。

 

私が「もうおしまい」と告げると、
娘は不満そうに唇を尖らせた。

そして、短い両手をパッと広げて、
私に向けてこう叫んだのだ。

 

「パパぁ、抱っこしてくれ〜ぃ!」

 

私は静かに天井を仰いだ。

 

一人称が「ボク」な上に、なぜか語尾が
気っぷの良い江戸っ子のようになっている。

魔法使いのマントの下から、
腹巻きを巻いた
大工の棟梁が顔を出しているではないか。

 

脳内のどこかで、哲学の祖が
「そこまでは知らん」と
肩をすくめるのが見えた。

 

子供の成長とは、
古代ギリシャの哲学者にも
予測不可能な、
実に難解なエンターテインメントだといえる。

 

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