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鯛の落書きとレオナルド・ダ・ヴィンチ

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鯛の落書きとレオナルド・ダ・ヴィンチ
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職場性ストレス/組織マネジメントの専門家 元国営企業に17年間在籍。 派閥や忖度が渦巻く組織で、管理職として300名以上をマネジメント。 重大アクシデント、人間関係の悪化、チーム崩壊といった修羅場を何度も乗り越え、「成果に繋がる行動設計」「人間関係の立て直し」「チームの活性化」など、現場で数多くの問題解決と組織改善に取り組んだ経験を持つ。 これまで会社員・管理職・起業家・経営者など、1500名以上を支援。職場のストレスや人間関係の問題、成果が出せないスランプに悩む方へ、心理技術と現場知見を統合した「実践的かつ本質的な解決策」を提供。 売上アップ・転職・独立・人間関係の改善など、「理想の働き方」を実現するサポートをしています。まずは、公式LINEまたは体験セッションでご相談ください。
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あれは、私が中学生の時だった。

授業中、
ノートの切れ端に落書きをして、
こっそり回し読みをする文化があった。

絵心に多少の自信があった私は、
クラスメートに向けて、
割とリアルな魚の落書きを
描いて送ったのである。

 

たしか、鱗まで無駄に
細かく再現した鯛だったと思う。

なぜ授業中に、あれほど
真剣に鯛を描き込んだのかは、
今でもよくわからない。

 

授業という真面目な空気感の中、
その落書きを見たクラスメートが
口を必死に押さえて肩を震わせ、
笑いをこらえているのが見えた。

 

数分後、その紙が私の元に帰ってきた。

そこには一言、
「こいつの名前は?」と書かれていた。

 

私は無の境地で名前を考え、
紙に書き込み、
再びクラスメートの元へと回した。

 

それを見た瞬間、

クラスメートが
「ブフォッ」と吹き出すように
爆笑したのを、
今でも鮮明に覚えている。

私は、紙にこう書いていた。

 

「佐士美(さしみ) 27歳 OL」

 

 

あれから数十年。

私は大人になり、
様々な経験を積んできた。

 

しかし、
あの時の「佐士美(27)」が
叩き出したレベルの笑いの打点を、
未だに超えられずにいる。

 

どうすれば、
あのレベルのボケを生み出せるのか。

 

この過去の栄光への執着を解決するため、
私は脳内会議室に
一人の賢者を召喚することにした。

ルネサンスの万能の天才、
レオナルド・ダ・ヴィンチである。

 

暇だったわけではない。
いや、少し暇だったのかもしれない。

 

「おお、空よ。君はまた、
己の才能の枯渇に怯え、
過去の幻影に囚われているな」

 

脳内のダ・ヴィンチは、
立派な白い髭を蓄え、
パレットを片手に
優雅に微笑んでいた。

 

「笑い事じゃないですよ、
ダ・ヴィンチさん。
私はあの『佐士美(27)』を
超える作品を、未だに
生み出せていないのです。
完全なるスランプです」

 

ダ・ヴィンチは、ふふっと笑う。

 

『モナ・リザ』の微笑みを
知っているか?
あれは、極めて写実的な人物描写と
謎めいた背景とのギャップが生み出す
至高の芸術だ。

君の『佐士美』もまた同じ。
鱗までびっしり描き込まれた
無駄にリアルな鯛と、
『27歳 OL』という
突拍子もない設定のギャップが、
極限のユーモアを生み出している。

それはまさに、
ルネサンスの精神そのものだ」

 

「ルネサンス……」

 

なんという響きだろう。

ただの中学時代の落書きが、
急に美術史に刻まれた
名画のように思えてきた。

 

ダ・ヴィンチはさらに語りかける。

 

「君は『超えられない』と
自分を責めている。

だが、芸術の歴史から見れば、
最高傑作など、
一生に一度生まれれば十分。

己の才の枯渇を嘆くのではなく、
あの瞬間、君の教室に
舞い降りた芸術の女神を、
素直に讃えなさい」

 

私はハッとした。

 

そうだ。
私は、「過去の自分」という
見えない壁と戦っていたのだ。

無理に笑いを作ろうとするから苦しい。

あの「佐士美(27)」は、
あの日、あの時、
あの場所でしか
出会えない奇跡だったのだ。
(お前は小田和正か)

 

「ダ・ヴィンチさん……
あなた、ただのモナ・リザを描いた
ヒゲのおじさんかと思っていました。
わりと良いこと言いますね」

 

「失礼なやつだな、君は。
まあよい、
その至高のユーモアを大いに誇り、
胸に抱いて生きるのだな」

ダ・ヴィンチは満足げにうなずき、
スッと脳内の霧の中へ消えていった。

 

私は、
憑き物が落ちたような
晴れやかな気分だった。

 

そうだ、
一生に一度の傑作でいいじゃないか。
あのルネサンスの輝きは、
確かに私の中にあったのだから。

 

私は溢れんばかりの親愛を胸に、
リビングでクレヨンを握っている
3歳の娘のもとに歩み寄った。

 

「パパ、見てー」

 

娘がスケッチブックを
誇らしげに見せてきた。

 

そこには、丸い顔から
直接手足が生えた、
謎の生物が描かれていた。

アンパンマンの出来損ないのような、
いや、手足の生えた
ジャガイモのようなフォルムである。

 

「上手だね。
この子は、なんていうお名前?」

 

私は、悟りを開いた賢者のような
穏やかな微笑みを浮かべて尋ねた。
あの日のクラスメートのように。

 

すると、娘は満面の笑みで
迷いなくこう言い放った。

 

「えっとね、これは、
ひざがいたい、ばぁば!」

 

私は静かに天井を仰いだ。

 

ただのピンポイントな
身体の不調である。

しかも、なぜ3歳児が
オカンの関節痛に着目したのか。

 

その無邪気な筆致から放たれた、
圧倒的な哀愁とセンス。

私が数十年間ひきずってきた
「佐士美(27歳 OL)」の残像が、
音を立てて崩れ去っていくのを感じた。

 

私の過去の栄光を、
3歳児の何気ない落書きが
いとも簡単に飛び越えていったのである。

 

脳内のどこかで、万能の天才が
「そこまでは知らん」と
キャンバスを抱えて
逃げ去っていくのが見えた。

 

笑いの才能とは、
ルネサンスの天才すらも予測不可能な、
実に残酷で理不尽なものだといえる。

 

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