大田泰示という「ついに覚醒した男」をコーチング的視点で分析する
プロ野球界において、
今、最も「目が離せない男」がいる。
日本ハムファイターズの大田泰示選手
大田泰示
- 1990年6月9日生まれ(27歳)
- 身長188cm
- 体重95kg
2008年 ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団する。
新人ながら、あの松井秀喜が付けていた背番号「55」を受け継ぎ、
「将来の4番候補」と言われた男。
だが、彼は今、日本ハムファイターズの外野手として、
背番号33番を付けている。
なぜか?
トレードに出されたのだ。
大田泰示がジャイアンツに在籍した8年間の通算成績は、
打率.229 本塁打9本。
彼への期待値からすれば、残念としか言えない結果に終わった。
しかし、これは読売ジャイアンツが抱える「組織体質」も関係していたといえるだろう。
「常勝軍団」としての宿命を背負ったジャイアンツで、
若手を我慢して使い続けることは難しい。
毎年、他球団から大物選手が入ってくるので、
芽が出そうになっても「我慢のしどころ」で2軍に落とされる。
連日、大物のOB達がやってきては、
それぞれ違うアプローチのアドバイスする。
頭ごなしに叱られることもあっただろう。
生真面目な選手は混乱し、萎縮してしまう。
サラリーマンでいうと、
大企業特有の「風通しの悪さ」「停滞感」「(政治的な)しがらみ」が、
ジャイアンツにはあるのだろう。
そもそも、高卒の18歳がいきなり松井秀喜の背番号を受け継ぐことは、
どれほど大きなプレッシャーになっただろうか?
大田泰示は典型的な「ホームランバッター」である。
三振も多いが、ホームランも打つ。
しかし、チームプレーを重視するジャイアンツでは、
「三振は恥」であり、チームの為の「コンパクトな打撃」を指導される。
結局ジャイアンツでは、彼の才能は開花することはなかった。
もちろん、彼の身体能力は「規格外のレベル」であり、
それは誰もが認めるところだった。
ラグビー日本代表ヘッドコーチ(当時)のエディー・ジョーンズが、
ジャイアンツの練習を視察に訪れた時のエピソードがある。
真っ先にエディー・ジョーンズが注目し、
原監督(当時)に「あの選手の名前は何ですか?」と聞いたのが大田泰示だった。
「動きが素晴らしい。大変な運動能力の持ち主ですね」
「あれだけ大きな体(188センチ、95キロ)で、あれだけ走れて動ける選手はそうはいません」
「もし彼がラグビーに転向したら、3年で日本代表選手に育ててみせます」とまで言うほどの惚れ込みようだった。
それを聞いた球団関係者が、
「いっそのこと、本当にラグビーに転向させてやった方が幸せなんじゃないか」と言ったそうだ。
そして、とうとう彼は、
日本ハムファイターズにトレード要員として放出されてしまう。
しかし、これが転機になった。
ファイターズの栗山監督は、以前から大田の獲得を熱望していた。
「ノドから手が出るぐらい、ウチにとっては必要な右の大砲」
「持ってるモノの大きさっていうのは、まだまだこんなものじゃない」
大田の入団後に、栗山監督はこう言った。
「(本人に)お願いしたのは、思い切りやってくれということ」
「打席に入って、フルスイングで3回三振してもいい。そういうのがあれば、必ず前に進む。そんな話をした」
そして、自由な雰囲気のファイターズと、大田の相性も良かった。
のびのびとしたプレーが許される。
我慢して、ずっと使い続けてくれる。
「環境の変化」が、大田の才能を覚醒させた
しかし、何より重要なのは、
大田泰示という人間の「純粋さ」「前向きさ」である。
ジャイアンツ在籍時代も、阿部慎之助選手との個人キャンプに帯同するなど、
ずっと成績が良くなくても、人間的には可愛がられていた。
東京のトップ球団から、北海道のチームにトレードに出される。
サラリーマンで例えるなら、左遷である。
しかし、彼はこれを「心機一転のチャンス」と捉えた。
誰にでも出来ることではない。
コーチング的な視点で、彼の「在り方」を観察していると、
非常に「人格的に統制がとれている」のを感じる。
「心が整っている」のだ。
「目標を達成する為に、自分自身に発破をかけ、鼓舞すること」
「どんな状況においても、前を向いて取り組み続けること」
「常に【今、自分に何が出来るか】を考え続けること」
「目の前の状況を悲観的に捉えるのではなく、肯定的に捉えること」
彼は、自分自身をコーチングできている
どんなジャンルにおいても「結果を出す人間」が行なっていることがある。
「セルフコーチング」である。
自分を信じ、どんな状況においても、前に進み続けること。
自分自身の「マインド」という土台があれば、
やがて、それに見合った「環境」が整う時が来る。
先日のプロ野球交流戦で、
彼は古巣のジャイアンツと3連戦し、
「10打数7安打 本塁打2本 2打点」と大爆発した。
「自分のトレード相手」のピッチャーから、今季第8号ホームラン。
こんな痛快なことがあるだろうか?
今や大田泰示は、
低迷する古巣にとって「ノドから手が出るほど欲しい選手」になりつつある。
彼は、自分の力で証明して見せたのだ。
今年、大田泰示選手が打席に立つ時の入場曲は、
Bon Joviの「It’s My Life」である。
「これが俺の人生だ」
そうやって打席に立つ彼の背中は、眩しいほどに格好良い。
明日は明日の風が吹く。