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4歳の娘と酒呑童子

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職場性ストレス/組織マネジメントの専門家 元国営企業に17年間在籍。 派閥や忖度が渦巻く組織で、管理職として300名以上をマネジメント。 重大アクシデント、人間関係の悪化、チーム崩壊といった修羅場を何度も乗り越え、「成果に繋がる行動設計」「人間関係の立て直し」「チームの活性化」など、現場で数多くの問題解決と組織改善に取り組んだ経験を持つ。 これまで会社員・管理職・起業家・経営者など、1500名以上を支援。職場のストレスや人間関係の問題、成果が出せないスランプに悩む方へ、心理技術と現場知見を統合した「実践的かつ本質的な解決策」を提供。 売上アップ・転職・独立・人間関係の改善など、「理想の働き方」を実現するサポートをしています。まずは、公式LINEまたは体験セッションでご相談ください。
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4歳になったばかりの娘の話である。

いつも元気に遊ぶのはいいとして、
夜遅くになっても、全く寝ようとしない。

無尽蔵のエネルギーで、
家の中を縦横無尽に走り回っている。

そんな時、妻が
最終手段として言うセリフがある。

 

「……オニさんが来るよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、
娘は「スッ…」と動きを止め、
無言かつ最短距離で寝室へ向かう。

これが最近のパターンである。

 

どうやら彼女は、
「オニさん」という存在を
相当恐れているらしい。

 

親としては、実に助かる。
しかし同時に、
拭いきれないジレンマがあった。

「オニ」という架空の恐怖で支配して、
無理やり寝かせていいのだろうか。

 

そこには親としての威厳も何もない。
あるのは、見えないバケモノに
育児を外注しているという
不毛な無力感である。

 

この子育ての深い悩みを解決するため、
私は脳内会議室に
一人の鬼才を召喚することにした。

日本最強の鬼、大江山の
「酒呑童子(しゅてんどうじ)」である。

 

暇だったわけではない。
いや、少し暇だったのかもしれない。

 

「ガハハ! 空よ。
貴様はまた、己の無力さに怯え、
小さな殻に閉じこもっているな」

脳内の酒呑童子は、
巨大な角を生やし、
大きな瓢箪から酒を飲みながら
豪快に笑い飛ばした。

 

「笑い事じゃないですよ、酒呑童子さん。
私はあなた達『オニ』の恐怖を使って、
娘を無理やりコントロールしているんです。
親として、情けないじゃないですか」

 

酒呑童子は、
鋭い牙を見せてニヤリと笑う。

「愚かな人間よ。
鬼への恐怖とは、生物が本来持つ
『生存本能』そのものだ。

貴様は架空のバケモノで
脅しているのではない。
『この世には、決して抗えない
恐怖が存在する』という
世界の理(ことわり)を教え、
過酷な現実を生き抜くための
危機管理能力を育てているのだ。
胸を張れ!」

 

「世界の理……」

 

なんという響きだろう。

ただの
「オニさんが来るよ」という脅し文句が、
急に壮大で愛に溢れた
英才教育のように思えてきた。

酒呑童子はさらに語りかける。

「人間は、痛みを恐れるからこそ
火に近付かない。
鬼を恐れるからこそ、夜の闇から身を守る。
貴様は親として、立派に
娘の命を守る盾となっているのだ。
我ら鬼の名を、大いに利用するがよい!」

 

私はハッとした。

そうだ。
私は心のどこかで
「オニに頼る自分」に罪悪感を感じていた。

しかし、
私は育児を外注したのではない。
いつか自分の軸で生きていく娘へ、
この世界の「厳しさ」を敢えて教え込む。

それは、
親としての深い愛だったのだ。

 

「酒呑童子さん……
あなた、ただ酒飲んで暴れてるだけの
ヤバい化け物かと思っていました。
わりと良いこと言いますね」

「失礼なやつだな、貴様は。
まあよい、
我ら『鬼』という厳しさの化身を、
誇りを持って使いこなすがよい」

酒呑童子は満足げにうなずき、
豪快に酒をあおりながら
スッと脳内の霧の中へ消えていった。

 

私は、
憑き物が落ちたような晴れやかな気分だった。

 

そうだ、オニは教育なのだ。

バケモノに頼るという私の罪悪感が、
「世界の厳しさを教える」という
崇高な育児論へと見事に昇華されたのである。

あの平安の世を震え上がらせた大妖怪が、
まさか現代の子育てにおける
最高のソリューションになろうとは。

 

その夜。
娘はまたしても寝る配分を間違え、
キャハハと家の中を走り回っていた。

私は溢れんばかりの愛と威厳を胸に、
リビングのど真ん中に立ち、
堂々と宣言した。

「早く寝ないと、オニさんが来るよ!」

娘の生存本能よ、目覚めるがいい。

 

しかし。
娘はチラッと私を見ただけで、
全く意に介することなく、
再びキャハハと走り去っていった。

おかしい。
教育としての恐怖が、1ミリも効いていない。
(ただナメられているだけなのか?)

 

その時である。
騒ぎを見かねた妻がキッチンから現れ、
ため息を一つついて、
絶対零度の、地を這うような声で言った。

 

「……オニ、来るよ」

「ヒッ」

娘は短く息を呑み、
「スッ…」と寝室へ消えていった。

 

私は静かに天井を仰いだ。

娘が恐れていたのは、
大江山の鬼でも、世界の理でもなかった。

ただの、マジギレする5秒前の
妻であった。

妻は、オニという業者を
外注で呼ぼうとしているのではない。
彼女自身が、すでにオニなのだ。
(しばらく一人旅に出ようと思う)

 

そこには壮大な教育論など欠片もない。
実にシンプルな、家庭内の
絶対的な権力構造があるだけだった。

私が数十秒前まで感じていた
親としての威厳と教育論が、
妻の低いデスボイスによって
音を立てて崩れ去っていくのを感じた。

脳内のどこかで、日本最強の鬼が
「あれには勝てんわ」と瓢箪を放り投げ、
裸足で逃げていくのが見えた。

 

子育てとは、
最強の鬼すらも恐れおののく、
実に理不尽で身も蓋もない現実だといえる。

 

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